捨て犬からセラピー･ドッグへ

ニューヨーク･ブロンクスの病院に長いこと入院をしている、ダウニーさん。熱、血圧ともに下がらず何度も腕に注射を打たれたり、時には永遠に続くように思える痛みに悩まされることもあるという。

しかし週に一度、そんな痛みを忘れさせてくれる存在が病院を訪ねてくる。名前はスピリット、セラピー･ドッグだ。

「スピリットはベッドの上に来て、足元に横になるんだ」とダウニーさん。「痛みに苦しむ人を助ける良い方法だと思う。スピリットは色んなことを変えてくれた。前は度々の採血で腕が痛んだけれど、今は気にならなくなった」「お医者さんに毎日、家に帰ってもいいかって聞いていたが、スピリットがそんな気持ちを変えてくれた」という。

動物によるセラピーは虐待や育児放棄を受けた子供やガン患者を助けるという。また戦争を経験した元兵士達もペットとは強い繋がりを持つ。

米国医師助手協会によるジャーナル（JAAPA）が行った研究（2011年）で、患者達は動物と接触を持った時「気分が良い」ということがわかったそうだ。

スピリットは病院のガイドライン（四肢の消毒、リードと写真付IDをつける）を遵守している。また獣医により感染症などの心配がないことを明らかにする必要がある。

そして（勿論）セラピー･ドッグが来ることを承諾した患者のみを訪問しているそうだ。

専門の医師は「セラピー･ドッグは医療行為をするスタッフが見ることがない患者の姿を引き出す。そのことによって、医療スタッフと患者とのコミュニケーションが高まることにも繋がる」という。

スピリットもセラピー･ドッグとしての仕事を気に入っているようだという。スピリットは保健所からレスキューされた犬。子犬の時にひどく虐待を受けていた様子だったが優しさや溢れる愛情を失わずにいたと、飼い主のリンダさんは語る。

「気持ちが落ち込むことが多い環境の中、愛と優しさを持つ者が現れるのは素晴らしいこと。病院のみんながスピリットと写真を撮りたがっていた」とリンダさんはスピリットのセラピー･ドッグ初日を振り返る。

スピリットは車イスや歩ける患者には廊下で挨拶をする。ベッドに寝ている必要のある患者の場合は病室に訪問するそうだ。

スピリットがひとつの病室を訪問した時のこと。その部屋には呼びかけに無反応な年配の女性患者と2人の50代になる娘さんがそばにいたという。

「スピリットが横になっている女性患者のそばを軽くかすめた瞬間、彼女は目を覚まし、昔飼っていたという彼女の犬について20分間も語り始めたことがあった」とリンダさん。それは2人の娘さん、リンダさんにとって感動的なものだったという。

また、スピリットの訪問には従来の医療行為にはないホリスティックな治癒能力があるみたいだという人もいる。

治る見込みが少ない病気をわずらっている女性のベッドにスピリットが飛び乗ったときのこと。この患者は農場で沢山の動物に囲まれて育ったそうで、スピリットに触った時に、子供の頃の幸せだった思い出を彼女に思い出させたようだっだという。それは医療スタッフの心にも訴えるものがあったそうだ。「医療を行う者として冷静な態度で接するよう訓練を受けてきたけれど、患者の病状を見ていただけではわからなかった何かを知ることが出来た。それは"人間"の部分を強く感じるものだった。」という。

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