BBCが2008年に放送したドキュメンタリー「Pedigree Dogs Exposed」。日本ではNHKが『犬たちの悲鳴 ~ブリーディングが引き起こす遺伝病~』として2009年に放送している。このドキュメンタリーは純血種の犬達が遺伝的、骨格的疾患により苦しむ現実を取り上げ大きな波紋を呼んだ。本来、犬達は猟や番犬などという実用的な目的や自然環境に合わせて発展してきたが、近年になり犬達が本来担っていた役目をする機会は少なっていく。そこで『犬種の保存』の目的で犬種スタンダードが作られた。19世紀中頃からブリーディングが"人々の楽しみ"と行われるようになりドッグ・ショーが開催されるようになると、犬種スタンダードに合う犬達を作るため犬種の特徴は強調されていくようになる。しかし『犬種の保存』が目的だったはずが、外見を重視し特徴を強調するために近親交配が行われることで多様性は失われ遺伝的疾患、骨格(体型)変化による疾患が増加している現実がある。また犬種スタンダードから外れる"健康な子犬達"が"望まれない子犬"として扱われてしまう道徳的な問題も発生している。「棒を持って目の前にいる犬を遺伝子疾患の痛み*と同じほど叩けば動物虐待として罰せられるが、遺伝子疾患を子孫に引き継ぐ可能性のある犬を繁殖に参加させることは自由に出来てしまう」と獣医神経科医は語っている。ドキュメンタリー製作当時(2006年頃)には繁殖に参加する犬達の遺伝的疾患の検査はほとんどの犬種において行われていなかったという。実際にドッグ・ショーのチャンピオン犬が遺伝子疾患を患っていたケースがあり、そのチャンピオン犬は繁殖に参加していたそうだ。純粋犬種達が健康に幸せに一生を終えることも多いだろう。雑種犬が遺伝的疾患に苦しむことだってあるだろう。しかし"私たちの好み"で繁殖をする犬達に対して、少しでも健康に生まれるようにする責任はないのだろうか。犬達は自分の犬種が絶滅しようが、自分や子孫が『血統証明書付』であろうが関係ない。私達だって家族として迎えた愛犬が苦しむ姿は見たくないし、病気にかかる確率が少ない方を望むはずだ。それぞれの歴史の中で培ってきた犬種の持つ見た目や性質は本来の目的を失った今も多くの人達を魅了しているし、現代に合った形で活躍している犬種も多くおり『犬種スタンダード』は『犬種の保存』には必要なものだろう。しかし見た目が優先されるが故に、犬の健康が損なわれ『犬種の保存』が正常に行われていないとしたら、そんな『犬種スタンダード』がある意味はあるのだろうか。また日本においては断耳、断尾が認められており、コンパニオン・アニマルである犬達に不要な施術であっても『犬種スタンダード』として示されている。ケンネル・クラブ、ブリーダーだけではなく全ての人達が"犬の将来"について真剣に考え方向転換しなければいけないと、ドキュメンタリーは語りかけている。
このドキュメンタリーには続編が予定されている。タイトルは『Pedigree Dogs Exposed - Three Years On』。大反響のあった2008年のドキュメンタリー放送後、どのような前向きな変化があったかなどを取り上げるそうだ。イギリスでの放送予定はBBCにて2012年2月27日とのことだ。日本での放送が待ち望まれるドキュメンタリーになりそうだ。